第71章 ザイオンの逆襲⑫
ザイオンの足は、予想以上に早かった。でかい右手が肩や背中を捕らえようとする度にどうにか右へ左とフェイントで免れて、懸命に走り続けた。さしずめ野生動物でいえば、ライオンの襲撃から逃れるガゼルのような感じだ。いやガゼルだと最後は喰われちまう。アリーナの足にまったく追いつけなかった俺が、怪物と互角に走っていた。だがこのまま仲良く走っていては、らちが明かない。このままでは疲れて捕まるのは確実だった。悪いことに、スーツの酸素残量も半分以下になっていた。
これはまずいぞ! 非常にまずいことになった。走りながら胸に声を飛ばした。瞳に、オアシスが見えてきた。これは幻想か? いやそうではなかった。陸上競技場ほどもあるドーム型の食物生産用のファームだ。中は地球の酸素濃度と同じだ。そこに逃げることを決めた。ファームまで残り約80メートル。もうすぐだ。
やばい! 足に乳酸菌が溜まってきた。このままでは追いつかれてしまう。怪物の影が肩越しに見える。まったく金魚の糞じゃあるまいし、まったくしつこい野郎だ!
よしゃ! ファームの入り口だ! と胸に声を飛ばし、飛び込むようにしてファームに入ったときだった。何かに足を引っ掛けて転んだ。すると、俺がいきなり止まったので、すぐ背後にいた怪物も不意をつかれ、俺の体にぶつかり前に吹っ飛ぶようにして転がっていった。
いったい誰だ?! 危ないだろうが。きちんと片付けろ! いやいまは、そんなことはどうでもいいが。すぐに腰を上げて戦闘態勢をとり、起き上がってきたザイオンの攻撃に備えた。
こうなったら、ここで戦うしかない。
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