第70章 防衛戦⑯

 それでも諦めるわけにはいかない。落下しないよう必死に、もがき続けた。だが体は、死神に手にがっちりと捕まえられたままだ。誰が焼却処分にされてたまるか! 懸命に手を漕ぎ、足をばたつかせて無重力地帯へ逃れようと、もがき続けた。

 そこに、近くを通りかかった漁船が俺に気づいてくれて救出を、いや無視して艦船の方向に向かって落下するように、物凄い勢いで飛んでいく戦闘機が眼に入った。


 いったい誰だ? 俺の代わりに艦船と心中する奴は? 小さくなっていく戦闘機を眼で追っているとUターンしていた。やっぱり心中はやめたようだ。そして今度はこちらに向かっていた。パニック状態で気付かなったが、味方の戦闘機だ。


 戦闘機が横に浮いた。パイロットの顔が見えた。アリーナだ!


「そこで、なにしてるの?」

 切れていた無線が回復したようで、彼女の声が聞こえてきた。


「宇宙遊泳の練習だ。どうだ? 上手だろ」

 窓越しに見える彼女に向かって、俺は見栄を張った。

 内心は、火星への落下速度が速まりだしていたので、かなり焦っていた。


「そう、それなら、しばらく見学していようかしら」

 アリーナが軽口を吐いてきた。


「いま助けるわ。動かないで」

 真顔に戻ると、俺の体を機体の上に乗せた。そして後部ハッチが開いた。


「急いで乗って! もうすぐ大気圏に突入するわ」


「わかった」

 俺は這うようにして後部ハッチに潜り込んだ。


 アリーナはハッチを閉め一気に加速して、キアヌたちがいる戦場を目指した。



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