第69章 フォボスの秘密⑥

 俺の胸はひどくざわついていた。火星人の歴史が頭の中で早送り映像のように終えると、今度は強い怒りが湧いていた。人間のクソ権力者たちだけでなく、おまえらもか! と自分の体に残っている火星人のⅮNAに罵声を浴びせた。


「核爆弾以外にも爆弾があるようですが、この丸いものは不明です」

 アリーナが俺の気持ちを察したのか? 話を切り替えて黒い物体を調べていた。


「いまは、ガイガー軍を阻止することが最優先だ。そろそろ引き揚げよう」

 怒りの鉾を収めた俺は、平静な顔で応じた。


 地上に上がると、キアヌたちが発進の準備を進めていた。勝利が望めない絶望的な戦いだ。どの顔も暗かった。俺たちは間違いなく、全滅することになるだろう。だがそれでも戦わなければならない。逃げることは許されないのだ。


 火星に眼をやった。あそこには、俺たちの勝利を願っている40万の住民がいる。

 俺の娘も。そうだ! なにがなんでも絶対に勝たなくては。

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