第69章 フォボスの秘密⑤

 電流が俺の全身をビリッと刺激し、脳内にも信号が流れると、火星人たちの生活、情景が両瞼に浮かんでいた。火星人たちの言語のようなので、何を話しているのかはさっぱりわからないが、人間社会とさほど変わらないように見えた。むしろ人間よりも秩序正しく生活しているように思えた。


 強欲な権力者が登場するまでは、火星は平和な星だった。民主主義社会からヒトラーという悪魔を生み出したように、火星にも覇権を争う強欲な悪党たちが登場し、火星の支配をめぐって戦争が頻発するようになっていた。ただし人類と違う点は、火星を滅亡させる小惑星の落下に備えて、このフォボスを小惑星衝突回避のための基地にしていた。


「フォボスは火星の防人だ」

 俺は眼を開けて起き上がると、開口一番に告げた。


「火星の防人?」

 アリーナが少し驚いたような口調で訊き返してきた。


「ああそうだ」

 俺は少し皮肉めいた口調で言い返した。


 火星人たちは、フォボスに迎撃基地を配備し、文明を滅亡させるような巨大隕石の襲来に備えていたが皮肉にも、文明を滅亡させたのは自分たちだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る