第69章 フォボスの秘密④

 俺は口を半開きにして、周りの光景に眼を見張った。まさか、ちっぽけな衛星にこんなものがあるとは。


「ここにあるのは、大量破壊兵器の爆弾だわ。しかも、水素爆弾の何十倍も破壊力がありそうなものよ」

 アリーナが調べながら声を発してきた。


「置いたのは、火星人たちか?」

 俺は核爆弾と聞いて、触っていた眼の前の金属の塊から、本能的に手を放した。


「たぶんね。あれを見て」

 アリーナが眼で指さした方向を見て、俺はギョッとした。


 弾薬庫に不似合いなものが、瞳に飛び込んできたからだ。天井から鈍く跳ね返ってきた光を浴びた代物。機器の前に置かれたベッドが俺の眼を奪った。


 そのベッドが俺を、おいでおいでをしているようにも見える。そう言えば、あの変な音はそこから聞こえていた。

 すると、俺の脳みそに妄想が湧いてきた。このベッドは古代人がよくやる、生贄の儀式のベッドでは? あるいは?


「このベッドは、ここで彼らが負傷したときの治療ベッドみたい。それと……他にも使い道があったみたいだわ」

 先にベッドに近づいたアリーナが調べながら、説明してきた。


 さすがだった。ベッドを何に使ったのかを、アリーナはすぐにわかったようだ。人間の科学者たちなら、このベッドが生贄用に、いや何に使われたのかを解明するのに、相当な期間を要しただろう。


「そこから音が聞こえてきたんだ」

 俺は、人間としての少しは優越感を示そうと、彼女には聞こえなかった音を、胸を張るように告げた。


「このベッドから?」

 アリーナがベッドを触りながら訊き返してきた。


「いや、ベッドかはわからない。ただそこから聞こえてきたのは間違いない。いまは何も聞こえなくなっているが」

 側に近づいて、ベッドを確かめるようにしながら返答した。


「わかったわ。そこに寝てみて」

 アリーナが閃いたような顔で吐いてきた。


「え? ここに?」

 俺は意味が呑み込めないという顔で言い返した。


 二人で寝るには、このベッドは小さすぎるぞ。それに宇宙服も脱げないし。まあ、冗談だが。


「そう、寝てみて」

 俺は言われたとおり、ベッドに横になった。


 いったい何するつもりだ。誰も見ていないことをいいことに人体実験? いやまさか? 俺のくだらん妄想を蹴散らすかのように、アリーナが時折、首を傾げならベッドの周りをいじり始めた。ああでもない、こうでもないと考える仕草をしながら、奇妙な形の機器を引っ張り出し、俺の体に被せた。

 すると、機器に電流がブーンと流れた。すると、俺の全身にも濁流のように青い電流が流れていった。

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