第69章 フォボスの秘密②

 火口の直径30メートルほどの円錐形のなだらかな丘のような火山だが、火口底までは100メートル近くはありそうだ。


「聞こえてくるのは、この下からだ」

 火口底に眼を注いで、声を落とした。


「わたしには何も聞こえないわ」

 アリーナが側に並ぶように立つと、言い返してきた。続けて何かを言いそうだったが、声には出さなかった。


 おそらく、人間の耳よりも何千倍も聞き取れる自分には何も聞こえないのに、との疑念に思っているのだろう。それを言おうとしたのかもしれない。


「確かめる。下に降りてみる」

 俺は火口に眼をやったまま、声を返した。


「わたしも降りるわ」

 アリーナが同じように火口に眼をやったまま答えてきた。


 俺たちは飛び降り心中? いや火口底を目指し、慎重に降りた。直径が2キロ余りしかないフォボスの火口に降りるのは、予想よりもたやすかった。

 いや、そうではなかった。


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