第69章 フォボスの秘密①

 自然豊富な火星に比べ月を小さくしたようなフォボスの風景は、ひどく殺風景だった。白黒の墨絵のような淡色の世界だった。


「なにか聞こえないか?」

 俺は自分の耳を確かめるように、キアヌに聞いた。


「いえ、なにも」

 キアヌが首を少し傾けるようにして答えてきた。


「あんたらの耳は、俺たち人間の耳より何十倍もいい。アリーナはどうだ?」

 少し離れた場所で装備の再確認をしているアリーナにも訊いた。


「いえ、何も聞こえないわ」

 作業を中断して、同じように答えてきた。


「いや、確かに聞こえる。まるで、俺を読んでいるかのようだ」

 俺は神経を耳に集中し、聞こえている方角を探した。


 瞳に小さな丘が映った。

「聞こえたのは、あそこの方角だ」

 俺は言うと同時に、その丘に誘われるように足を向けた。

「宮島さん」

 アリーナが少しびっくりしたような声をあげ、後を追ってきた。

「これは?」

 頂に上がった俺の眼に飛び込んできたのは、小さな噴火口だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る