第65章 仮想戦⑨

 みんな、俺が何を言うのか、口を開くのを待っていた。


「俺を変えたのは、大切な人を失うことへの怒りだ」

 まだいくぶん熱を帯びた顔で答えながら、俺の瞳の片隅は、少し斜め後ろに立っているアリーナを映していた。


 アリーナは俺の話を聞いて、顔が少し赤らんでいるように見えた。たぶん俺にそういう風に見えただけなのかもしれないが。


「みんなも、ここには大切な家族や、愛する人が住んでいる。この戦闘で負ければ、その人たちも死ぬことになる。その怒りを操縦にぶつければ、家族の命を必ず守るという強い気持ちを今以上に強く持てば、絶対に奴らを倒せる」

 午前までは落ち零れの劣等訓練生だったくせに、優秀パイロットのような顔で、手話を交えて熱弁を続けた。


「そうだ。我々がやられたら、家族も死ぬことになる。絶対に勝利するんだ!」

 パイロットの一人が叫ぶように声をあげてきた。


「ああ、そうだ! 我々は絶対に負けるわけにはいかない。必ず勝つぞ!」

 同じような声が次々とあがり、パイロットたちの互いの士気を鼓舞する声が訓練施設内に響いた。


「さあ、時間がもったいない。訓練に戻るぞ」

 ガガーリンの指示する声が上がると、パイロットたちはそれぞれのコックピットに走るように戻っていった。


「宮島さん、みんなの闘志に火をつけましたね」

 キアヌが横から声をかけてきた。


「ああこの戦いは、絶対に負けるわけにはいかない。俺は訓練時間をもっと延ばす」

 俺は強い口調で応じた。


「二人はペアだから、わたしも付き合うわ。今度は撃たれたりはしないわよ」

 アリーナが何か意味ありげな口調で口を挟んできた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る