第65章 仮想戦⑧

 自分の機が撃破された後も、俺の頭は怒りで沸騰していた。


「宮島さん、すごいわ」

 コックピットのドアを開けて飛び込むように入ってきたアリーナが、歓声を上げて傍に近づいてきた。


 俺は生きたアリーナの姿を目にして、現実に引き戻された。まだ怒りを爆発させていた頭の沸騰もようやく収まった。


「アリーナ、生きていた、いや、いい腕前だろ」

 途中、言いかけた言葉を喉に仕舞い、照れ隠しの口調に切り替えた。


「いや~、すごいな。宮島さん、自信があると言っていたのは、本当だったのですね」

 続いて飛び込んできたキアヌが、すごく驚いた口調で声をかけてきた。


「本気になればこんなもんだ。それより、喉が渇いた。まずは外に出よう」

 見栄を張るように自慢の声を返した。


 二人との会話を終えた俺はコックピットを出た。外には、パイロット全員が周りを囲むように集まっていた。見渡すと、全員の目が点になっていた。以前の点とは、違う眼だ。その点眼を目にして、当然だよな、と俺は思った。1、2機の撃破なら、大歓声で出迎えられただろうが、キアヌたちでもできなかった、ありえない離れ技を劣等生の男がやってのけたのだ。


 たとえて言うなら、ドンケツを走っていたランナーが反則高速シューズに履き替えて、全選手をごぼう抜きにして1位になったようなものだ。だが中には、その表情からして、目の前の男は、本当に人間なのか? とでも思っているような面々もいた。いや、大半がそうだ。


「いったい何があったのですか? 何かコツでも見つけたのですか?」

 ガガーリンが全員を代表するように、ぜひ知りたいという顔で聞いてきた。


 俺はその質問に、すぐに声を返さず、アリーナの戦闘機が撃破されたときのことを思い浮かべた。あまりにもリアルすぎて、また怒りが湧いてきそうだった。


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