第63章 フェニックス⑨
ジュンは、物言わぬゲバラの顔を哀切な眼で見つめた。
「ゲ、ゲバラ、ゲバラ、起きてくれ。目を覚ましてくれ」
ゲバラの顔の傍に立つと、祈るように声をかけた。
だが、ゲバラが眼を覚ますことはなかった。亡骸のように横たわったままだった。
「頼む、お願いだから、眼を覚ましてくれ。僕には、あんたが必要だ」
ジュンは泣きそうな顔で訴えた。
「頼む、お、お願いだ。眼を開けてくれ。頼む……うう」
ジュンは眼に涙を溜め、声をかけ続けた。堪えきれず、言葉の代わりに嗚咽を漏らし、涙を頬に零した。 これまでジュンの心に引っ掛かっていたものが、なんだったのか? いまはっきりとわかった。ガーピスが言っていた人間の遺伝子のデータとは。自分の父の遺伝子だと確信した。だから、ゲバラに父の匂いをずっと感じていたのだ。
ジュンはゲバラの腕を掴み、物言わぬ顔を哀切な眼で見つめ続けた。一睡もせず、傍に寄り添い続けた。2日目の朝だった。満足に睡眠も取らずにガイガーたちの災禍から人々を救出活動してきた疲労感が、こんなときになってどっと押し寄せてきた。
激しい睡魔に襲われて、抗い続けたが限界を超えていた。勝てずに眼を閉じかけたときだった。バチバチバチと、何かを引きちぎるような切断音が聞こえてきて、睡魔を瞬時に消し飛ばした。
「ゲバラ!」
ジュンは眼を大きく見開いて声を上げた。
「ジュン! おまえのお母さんが奴らに襲われる。俺は火星に行く」
ゲバラが体につながった線を外しながら、いつもの声を飛ばしてきた。
「え? 火星に?」
ジュンは驚いた声を返した。
そこに施術室の異変を感知したガーピスたちが、すっ飛んできた。
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