第63章 フェニックス⑦
ジュンとマルケスたちは、施術の様子が窓越しに見られる別室の席に座っていた。その視線の先には、丸いボックスにすっぽりと覆われたゲバラの姿があった。まずは脳神経を復元できるかが、生死を決める最大の問題だ。
なにせ、人間なら完全に死んでいる体だ。
ジュンの心は不安でいっぱいだった。ガーピスの五分五分といった言葉が、頭にずっと残っていて、頭がどうにかなりそうだった。ゲバラは、ジュンにとって家族の一員と同じ存在だ。亡き父親と重なる、大切な存在だ。もしも彼が傍にいなければ、自分たち家族は今頃どうなっていたか? 生きていなかったかもしれない。
父が死んだ後の世界は、無法状態だった・欲望剥き出しの悪人が増え、強盗殺人、強姦と、人間社会は弱肉強食の獣の世界になっていた。そんな悪人たちから母と自分を守ってくれたのがゲバラだった。
叔父の竜司が家族の護身用にと、ゲバラが家にやってきたとき初めは馴染めなかった。それどころか、ジュンは強く反発していた。家から追い出そうと辛辣な罵声を浴びせて、随分ひどいことをしてきた。だがゲバラは怒るどころか、いつも穏やかな顔をして接してくれた。ゲバラが初めて怖い顔を見せたのは、家に5人の暴漢が凶器を手に侵入してきたときだった。暴漢たちの狙いは美しい母の体だった。ゲバラは怒りを爆発させ暴漢たちをあっという間に退治した。
そのときはじめて、自分たち家族にはゲバラが必要だと理解した。その未遂事件を機にゲバラと親密になっていった。だが、ときには二人で悪ふざけをしてしまい、母にひどく叱られたこともあった。もっともその悪ふざけは、ジュンが仕向けたものだが。
毎日、ひどい事件が絶えない無法社会となった世界で、ゲバラのおかげで今日まで生き延びてこられた。ゲバラが死ぬということは、ジュンにとって耐えがたいことだった。
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