第63章 フェニックス②

「え、恵美さん、す、すまない」

 ゲバラは薄れゆく意識の中で、呟いた。


 ガイガーが刺したものには、神経回路を麻痺させる何かが仕込まれていたようだ。脳の回路以外は、体どころか指一本も動かせなかった。


 残忍冷酷なガイガーのことだ。相手に恐怖を感じさせて殺すために、脳神経だけは働くような特殊な神経毒を使ったのかもしれない。


 凄まじい水圧に、体がペシャンコに圧し潰されそうだ。人間の体なら、とっくに元形がわからぬほどに潰れている水圧だ。それでもゲバラには死の恐怖などはない。意識にあるのは、恵美たちを救いに火星に行けない苦しさ悔しさと、ガイガーを倒せなかった無念さだけだった。


 圧力がどんどん増して、体の表面がバキバキと潰れていくように感じた。頭が潰されるのは最後か? 潰れるなら先に頭を潰してほしいと願った。これまでどんな痛みにも平然と耐えてきたが、この凄まじい激痛には、少しでも楽に死にたいと初めて思った。


 さすがのゲバラも、深海の圧力地獄には悲鳴を上げたかった。だが、水圧は悲鳴さえも許さなかった。

 この先の海底が、自分の墓場だと悟った。これまで経験したことのない激痛に神経回路がとうとう耐えられず、意識が完全に飛んだ。

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