第62章 死闘⑦
水圧がゲバラに加勢したことで、水中でのバトルは、ほぼ互角だった。そこに旗艦機の壁がギシギシと、軋み始めている音が聞こえてきた。どうやら旗艦機は海底まっしぐらに沈んでいっているようだ。
北極海の最大深度は5440メートルだ。水深千メートルで101気圧、このまま海底まで落ちていけば、二人の体が潰れるのは確実だ。それに気づいたのか、ガイガーの攻撃も焦っているような、少し雑な攻めになってきた。早く決着をつけて、ここから脱出するつもりのようだ。一方、ゲバラの眼中はガイガーを倒すことだけだった。ここでガイガーを倒せれば、この身がどうなろうと構わなかった。
その心理の差が、攻防に現れてきた。1200メートルは過ぎただろうか、水圧が強くなりだすと、ガイガーが焦りだした。その隙をゲバラは見逃さなかった。ガイガーの隙をついて背後にまわり羽交い絞めにした。
「おい! 放せ!」
ガイガーが怒声を浴びせてきた。
人間と違って、ゲバラたちAIは、口を開かなくても話せるのだ。
「残念だが、このまま海底旅行だ」
ゲバラは軽口で応じた。
「そしたら、きさまも死ぬぞ!」
羽交い絞めを振り解こうとしながら、声を飛ばしてきた。
「別に構わんさ。おめえを殺害すれば、俺の体はどうなろうと関係ねえ」
ゲバラは平静な口調で答えた。
「なるほど、おまえヒューマノイドなのに、好きな人間の女がいるのか」
体を密着させたことで、記憶の一部を盗み取ったのか? 話を変えてきた。
「しかも、その惚れた女は火星にいる。図星だな。だが火星にいる人間どもは、もうじき全員死ぬ。俺が部下を火星に行かせた。皆殺しだ」
ガイガーが嘲笑するように声を投げつけてきた。
「なんだと、きさま!」
ゲバラは怒り声をあげると、体に動揺が湧いてきた。
火星にいる人たちが、皆殺しにされる! あの人も!
それが、ゲバラの心を占めた。
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