第62章 死闘①

 胸に傷を負ったとはいえ、ヒムラーの強化ボディースーツはゲバラの攻撃をことごとく跳ね返した。一方、ゲバラのダメージは大きかった。また形勢が不利になってきた。今度は銃を使われないよう、ヒムラーが両腕で右腕を締め上げてきた。腕を圧し折るつもりだ。絶体絶命のピンチ! いやピンチは場合によってはチャンスにもなる。逆にゲバラはこの機を逃すまいと反攻に出た。腕を折られないよう防戦しながら、柔術士のように体を捻って人差し指と中指を鑓鉾の切っ先のようにして、ヒムラーの傷口に深く突き刺した。


「ぐぉ!」ヒムラーは悲鳴を漏らし腕の力を緩め後退しようとした。ゲバラは攻撃の手を緩めなかった。手刀にした指をさらに奥まで強くねじ込み、指を鍵状にすると神経回路を引き抜いた。「ぐぉ!」ヒムラーはまた悲鳴を零し、ガクッと膝を付いた。ゲバラはがら空きになった首に強烈な回し蹴りを放った。ボキッという鈍い音がして、ヒムラーの体は床に吹っ飛んだ。床に転がったヒムラーの体は、まだぴくぴくと動いていた。

 立ち上がったゲバラは、ヒムラーの頭に銃口を向けた。


「そ、その程度の力では、ガイガーには勝てない」

 ヒムラーが口から黒い液を零しながら吐いてきた。


「言うことはそれだけか? おまえたちは何千万、何億という罪のない人間を殺戮し生き地獄に陥れたが、おめえは安楽死だ。ありがたくおまえ」

 ゲバラは引き金を引いた。


 ヒムラーを躯にしたゲバラが前に進もうとしたときだった。機体が強く揺れると、左に大きく傾きだした。そして機体が軋む鈍い音を立てて、急降下しだした。


「マルコたちはエンジンを爆破させたようだな」

 独り言を吐くと、近くの壁にへばり付き、墜落の衝撃に備えた。




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