第59章 三者連合①

 ガイガー軍と大王軍の戦闘はいっそう激しくなり、総力戦になっていた。地上はいずれ火星のような風景になるのでは? 思わせるほど、山体は破壊され、森林は焼け野原に、海底も方々で抉られた。南極も例外ではなかった。白一色の美しい景色は一変していた。ペンギンたち動物の死体の血痕と黒い斑点が点在し、死の大陸と化していた。


 ゲバラたちを乗せた擬態機は、数万のペンギンの死体が広がる台地に着陸した。思わず眼を背けたくなる光景だ。なんの罪もない動物たちまでも殺されていく。これがいつまで続くのか。


「まったく酷えな。一番の犠牲者は動物たちだよ」

 ゲバラは赤黒い血に染まった雪原に降り立つと、怒りを露わにした声を落とした。


 すると、後から降りてきた西施が、近くの雪面に腰を落とした。腹でも壊したのか? ま冗談だが。西施の背後に近づいてみると、子ペンギンを抱いていた。


「この子は、まだ生きているわ」

 西施がすごく悲しそうな顔で吐いてきた。


 仲間でも平気で殺害する冷酷無比なアンドロイドだと思っていたが、予想外の行動を眼にして、ゲバラは驚いた。


「その子をどうするつもりだ?」

 ゲバラは西施の横に立って訊ねた。


「治療すれば助けられるかも」

 まるで動物愛護の人間の女性のように、返事をしてきた。


「驚いたな。人間を平気で殺す、あんたらが、動物の命を守ろうとするとは」

 ゲバラは少し皮肉を込めた口調で言い返した。


「人間たちは、欲望のまま娯楽のためだけに動物たちを殺す。だから人間は大っ嫌いよ。けど、わたしはまだ人間を殺したことはないわ。邪魔になれば躊躇なく殺害するけどね」

 西施が強い口調で返してきた。


「大王の手下には、あんたみたいなヒューマノイドは他にいるのか?」

 子ペンギンの治療をしている横顔に、疑心暗鬼で訊ねた。


 なにせ、これまでガイガーと大王軍の非情な殺戮を嫌というほど見せつけられてきて、西施も内心、完全には信用してはいなかった。まあ、これまで行動を共にしてきた中で、仲間が何度も彼女に救われており、疑念は薄れつつあったが。


「ええ、もうすぐここに来るはずよ。いや、既に来ているかも?」

 応急処置を終えた子ペンギンを抱きかかえて、腰を上げると、西施は探るように周りを見渡していた。


 その言葉を聞く間でもなく、周りに気配を感じたゲバラは、すぐさま銃を構えた。部下たちも続くように四方に銃を向けた。


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