第58章 新たな竜巻⑨

 俺たちは本部に戻った。ここも竜巻の被害を受けていた。マルコフの話では竜巻は8個も発生していたそうだ。人間が住むために火星の大気を変えた反動が、起きてきたということだろうか? 俺が棺桶カプセルに入る前も大きな問題となっていた、地球の温暖化による異常気象が頭に浮かんできた。


 それから1週間が経ち、隕石と竜巻の災害復旧はほぼ完了した。地球の普及作業と違うのは、その復旧の速さだ。何事もなかったかのように、元の姿になっていた。その光景を眼にして、地球に思いをはせた。強欲な連中さえいなければ、きっと人類の文明が続いていたことだろう。地球は天災ではなく、人災による破壊で荒廃したままだ。


 瞳を地球の方角に向けた。太陽から届く光熱量はなにも変わってはいないが、ドームの強化ガラス越しに浴びる日差しが、妙に熱く感じる。温度計に眼をやった。室内は20度と適温だ。外気は? なんと外のほうが断然温かい。いや、むしろ熱いといったほうが正しいかもしれない。28.5度を示している。ここがこの気温だと赤道地帯なら、熱風が吹いているかもしれない。


 やはり、異常気象が原因なのだろうか? それともあれが理由なのだろうか? いまも噴煙を続けているオリンポス火山に眼をやった。死火山がいまでは、火星温暖化の強力なエンジンになっている。

 そのまま山の方向を眺めていると、恵美が近づいてきた。


「ジュンから連絡があったわ」

 嬉しそうな顔で吐いてきた。


「ガイガーと大王が、また大戦争を始めたそうよ」

 俺が返事をする前に、今度は曇った顔に変えて吐いてきた。


「それで、ジュンたちは無事なのか?」

 俺は娘と眼を合わせ、すぐさま訊いた。


「ええ。心配ない、大丈夫だと言っていたわ。でも地上に生き残っている人たちが、また殺されてしまうことになる」

 恵美がひどく悲しそうな顔で吐いてきた。


 俺は、すぐに声を返せなかった。ただでさえ地球では毎日が地獄なのに、今度は生きることさえも許されないということか。

 

 AIの悪魔たちへの激しい怒りが、俺の内部から爆発しそうだった。



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