第58章 新たな竜巻⑧

 娘と話ができたことで、高ぶっていた俺の心も落ち着きを取り戻した。まだ砂粒が少し飛んでいたが、歩行には支障がないので救援機が到着する平地に向かった。


「アリーナ、大丈夫か?」

 道中の間、他に適当な言葉が見つからないので、ありきたりの声をかけた。


「ええ、大丈夫よ。あなたこそ、大丈夫?」

 予想したとおりの言葉が返ってきた。


 まず、そんなことはあり得ないと思うのだが、彼女がアマールと重なってみえていた。というより、元に戻ったように思えた。


 救援機が近づいて来る飛行音が、少しずつ聞こえてきた。視界は相変わらず悪いが肉眼でも見えるようになった。上空に現れると今度はバスケットを降ろさず、近くにふわりと着陸した。搭乗口から真っ先に出てきたのは、娘の恵美だ。そしてすぐさま駆け寄ると、抱きついてきた。


「おとう」

 半泣きのような声をあげてきた。


「大丈夫? 怪我はしていない?」

 俺が声を返す前に腕を解き、身体チェックをするようにしながら言ってきた。


「大丈夫、怪我はないよ」

 俺も心配ないという顔で応じた。


「お二人とも無事で本当に良かった」

 続いて降りてきたキアヌが、恵美の背後に立って声を上げてきた。


「ああ、俺には悪運が付いているから、そう簡単には死なんさ」

 軽口で応えると、キアヌと握手を交わした。


「他のみんなは? みんな無事か?」

 キアヌとの交信で、胸に引っかかっていたことを確かめるように訊ねた。


「救援車両1台が竜巻に襲われて、52人が犠牲になりました。本当に残念です」

 ひどく曇った顔で説明してきた。


「どういうことだ? ここから避難地までは相当離れているのに」

 俺はすぐに訊き返した。


「はい。みんなが避難している場所も砂嵐に襲われて、竜巻も発生したそうです」

 キアヌが肩を落とした声で答えてきた。


 1日で何本を竜巻が発生し、いったい火星の気象はどうなっているんだ? 俺が知っている火星とは、別の惑星になっている。

 異常気象の連続に、またも別の嵐もやってこないか、不安が俺の心に沸いていた。


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