第58章 新たな竜巻⑦

 俺たちは洞穴から出た。竜巻は消えていた。まだ砂嵐の影響で視界は悪かったが、避難するほどではない。


「おとう、おとう、聞こえる?」

 無線機から娘の声が聞こえてきた。


 まったくもう、お父さんとか、お父様、パパとか言えないのか。


「ああ、お父様だ。二人とも大丈夫だ。怪我もない」

 俺は娘の代わりに、お父様を強調した。


「おとう、本当に大丈夫? どこも怪我していない」

 恵美がまた念を押すように訊いてきた。


「ああ、大丈夫だ。あ、これはまずい」


「え、何!? 何がまずいの?!」

 恵美がひどく心配した声を飛ばしてきた。


「冗談だよ。どこも何ともない」

 俺は明るい声で返した。


「もう! 人を心配させて」

 無線機の向こうで、腹を立てている顔が浮かんだ。


「キアヌです。無事でよかった。これから迎えにいきます」 

 犬も食わない親子の何気ない会話に、キアヌが割って入ってきた。


 その口調が少し気になった。なにか、含みを感じた。カプセルから目覚めて以来、命の危機に何度も遭い続けてきたことで、俺の感覚が過剰反応するようになっているだけかもしれないが。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る