第58章 新たな竜巻⑥

 俺たちの代わりに、洞穴内の砂粒が竜巻に呑まれていった。竜巻の手は、俺たちも窪地から引き離そうと掴まえ続けた。


「もう少しの辛抱よ。頑張って!」

 アリーナの励ます声が聞こえてきた。


「ああ、こんなところで、くたばったりはしねえ」

 自分に言い聞かすように声を返した。


 だが、竜巻はしつこかった。その場に留まり、洞穴から俺たちを引きずり出そうとしているかのようだった。それから1時間は竜巻と格闘しただろうか。いや、実際には竜巻にいじめられていただけだが。その時間は2分程度か、長くても3、4分ぐらいだ。必死に耐え抜いた俺たちに、軍配があがった。捕食を諦めたようで、竜巻は去っていった。


 精根使い果たした俺たちは、そのままの姿勢でいた。そこに甘美な匂いが俺の体を刺激した。そのフェロモンの甘い匂いと、アリーナの胸との接触で、眠っている股間のアレが起きてきそうだ。アリーナは脳の改造以外には、体の構造は何も変わってはいないことをすっかり忘れていた。最強の護衛者である一方で、別の顔を持つ女だということを。


「アリーナ、手を離してくれないか。起きないと」

 俺はそのままでいたい本心とは、逆の言葉を吐いた。


 このままでは間違いなく、アレが起きてくるからだ。


「あ、ごめんなさい」

 アリーナが声を返し、俺の体を開放した。


「いや、謝る必要など、ぜんぜんないよ。俺はこれまで何度も、君に命を救われた。君には感謝しても感謝しきれない」

 ヘルメットと衣服にたっぷりと付いた灰色の砂埃を落としながら、俺は素直な気持ちを伝えた。


 アリーナも埃を落とすと、俺の感謝の言葉が嬉しかったのか? ヘルメット越しの顔がにこりと笑っていた。


 もう彼女の立ち振る舞いは、人間そのものだった。人間との違いは、体を支える骨格がカルシュウム成分の骨か、超金属の骨の違いだけのように思えた。

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