第58章 新たな竜巻⑤

 俺たちは丘を下り走り続けた。ところが、竜巻もしつこく追ってきた。いったい火星はどうなっているんだ? あいつらは生きているのか? しかもカテゴリーも増している。少なくとも4はあるだろう。アメリカのトルネードのようだ。まさかこいつらはアメリカから引っ越ししてきた竜巻か? さらにやっかいなのは、竜巻の速度だ。50キロ以上の速さだ。いくら俺の足が超人化したとはいえ、間違いなく追いつかれてしまう。


「あそこに小さい洞穴があるわ! あそこに逃げましょう」

 平行して走っていたアリーナが叫ぶと、俺の左手をいきなり強く掴み、全身を引きずるように走り出した。


 洞穴が大きく見えてきた。いや、近づいても洞穴は小さいままだった。腰をかなり折り曲げないと中に入れない代物だった。だが選択の余地はない。二人を逃がすものか! と声でも出しそうな轟音を発して竜巻が背後に迫っていた。


「他に隠れる場所はないわ!」

 アリーナが手を引っ張り、二人の体は飛び込むように洞窟に入った。


 案の定、期待した通りの深い洞穴だ。いや、奥行きは2メートルもない、洞穴とは言い難い浅い穴だった。だが悪運はまだ、俺を見放してはいなかったようだ。穴の奥には狭いながらも、小さな窪地があった。


「ここに身を伏せて!」

 張り上げるアリーナの声に従い、俺は窪地にヒラメのように身を伏せた。すると、予想もしなかったことが起きた。いきなりアリーナが抱きついてきたのだ。


 まさか? こんな状況で、何をしようというのか? いや、それは単なる俺のエロ妄想だった。アリーナの狙いは、二人を一体にして少しでも重くすることで、竜巻が伸ばしてくる腕に引っ張られないようにする作戦だった。こんな状況で勘違いしやがって! このドスケベがー! と俺の不純な妄想を蹴散らし吹っ飛ばすかのように、すぐに竜巻の腕も洞穴に侵入してきた。


 竜巻に鷲掴みにされて、外に引きずり出されそうだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る