第58章 新たな竜巻④
このままでは、竜巻に吞み込まれるのは時間の問題だ。
「わかりました。機長、あの丘の斜面に二人を降ろす。行ってくれ」
キアヌが要請すると、救援機は高度を下げ、斜面の上でホバーした。
「俺が先に降りる。アリーナ手を離してくれ」
地上までは、まだ3メートル近くはある。だがここは火星だ。重力は地球の1/3程度しかない。骨折することはないだろう。
「わかったわ。気を付けて」
アリーナが手を離すと、そのままストーンと地面に落ちた。火星の重力が弱いので楽勝だと思ったら、予想とは違った。
「あがー」地面に肛門をしたたか打った。いや、打ったというよりは、何かにケツを浣腸されたような感覚だった。思わず顔をしかめた。誰かが見ているかもしれないので、肛門は触れずにケツを擦った。そしてケツを右手で擦りながら、肛門を襲った犯人を捜した。
見つけた! 浣腸しそうな少し尖った黒石があった。「おい!」と罵声を投げつけて、そいつを思いっきり蹴飛ばした。
「こんなところで、痔になったらどうすんだ!」
濡れ衣かもしれない石に、八つ当たりした。
そこに、アリーナもさっそうと舞い降りてきた。尻を使った俺とは違って、華麗に着地した。さすがは最強の元女戦士だ。その着地の雲泥の差を眼にして、みっともないので、俺は浣腸されたことをばれないよう手を隠し、平静な顔をつくってアリーナを迎えた。
「なにかあったの?」
アリーナが何か異変を感じたのか、即座に訊いてきた。
「い、いや何もない。何も問題ない」
俺もすぐに返答した。
「お二人を必ず救助に来ます」
そこに、キアヌの声が聞こえた後、救援機は上空を離れていった。
「宮島さん、急ぎましょう。 二つの竜巻がこっちに向かっている」
アリーナがケツをさりげなく擦っている俺の傍に立つと、声を飛ばしてきた。
俺はその声に反応して、来た方角に眼をやった。ボートを襲った竜巻も、俺たちの方向に向かっていた。
「いったいなんなんだ? あの竜巻たちは。ありえんだろ」
俺は不満たらたらの顔をして愚痴った。
竜巻が、執念深い大蛇のように思えた。
「とにかく急いで避難できる場所を探しましょう」
俺たちは竜巻から逃れようと、丘の斜面を転げるように走った。
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