第58章 新たな竜巻③

 竜巻から逃げ切ったと思ったら、そうではなかった。黒い雲からするすると新たな竜巻が行く手を阻むように現れた。強風に煽れて、ロープは右へ左へと振り子のようになり、救援機は不安定な飛行になった。俺は振り落とされないよう、アリーナの体にしがみつくようにぶら下がり、一方、アリーナのほうは、俺を落とすまいと強く抱きしめていた。


「このままでは、救援機が落下するかもしれません。キアヌさん、聞こえますか?」

 アリーナが声を張り上げた。


「はい、聞こえます」

 キアヌが応答してきた。


「キアヌさん、このままでは救援機も危険です。わたしたちを前に見える小高い丘の斜面近くに下ろしてください」


「え? 二人を下ろす?」

 驚いた口調で、キアヌが即座に返してきた。


「はい」

 アリーナが即答した。


「でも、そうしたら二人が」

 キアヌが躊躇するような声を返してきた。


「キアヌ、言う通りにしてくれ。君たちを巻き添えにするわけにはいかない」

 俺も口を挟んだ。


「おとう!」

 恵美のひどく心配する声が飛び込んできた。


「心配するな恵美。お父さんは不死身だ。死んだりはしない。絶対に、お前のもとに必ず戻る」

 この最悪の状況下では、まったく自信はなかったが、娘を安心させようと気丈な口調で答えた。


 振り子がますます大きくなった。救援機ごと竜巻に呑み込まれそうだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る