第58章 新たな竜巻②

 そこに、バスケットが降りてきた。だが右へ左へと、激しく揺れていて、バスケットを掴まえれることができなかった。その間にも竜巻はまるで意思を持っているかのように、こちらに向かっていた。バスケットをどうにか確保したが、これが最後の救援だ。


「宮島さん、いってください」

 アリーナが強風にかき消されないよう声を張り上げてきた。


「いや、アリーナ。君がいくのだ。ここには、おまえの能力がまだ必要だ」

 俺も声を張り上げて言葉を返した。


「いえ、あなたは人間よ! わたしはヒューマノイド。さあ、行って!」

 さらに強い声で返してきた。


「いや、そんなのはまったく関係ない! アリーナ、君の命も大事だ。君の命は、人間と同じだ。さあ、いってくれ!」

 俺もいっそう声を張り上げて返した。


「宮島さん」


「さあ、いってくれ。君を死なせるわけにはいかない。これは俺の願いだ」

 俺は眼に敬愛の笑みを添えて声を返した。


「いえ、あなたを置いて、わたしはいきません」

 アリーナが眼を逸らさず、何かを付け加えそうな眼で見ていた。


 俺たちは瞳を重ねた。彼女は、俺を置いては絶対にいかないと語っていた。それでも、彼女を救いたい。俺が彼女より強ければ、力ずくでもバスケットに押し込むこともできるのだが。他に方法はないか、頭を巡らせた。


「そうだ。そのバスケットを外して、ロープを君の体と俺の体に巻き付けて、二人で同時に脱出すればいい」


「その手があったわ。宮島さん、わたしより頭いいじゃない」

 俺の性格が、伝染でもしたのか? この危機的な状況で、軽口口調で応じてきた。


 急いでバスケットを外すと、ロープをアリーナの体に巻いた。まずい! 俺の体を巻く分のロープが足りない。


「わたしに掴まって!」

 アリーナが強風に声を消されないよう、叫んだ。


 俺たちは強風に引き離されないよう、互いに体を絡めるように、強く抱きしめあった。バスケットの代わりに、今度は2人の体が左右に揺れた。竜巻の腕がそれを引き剝がそうとしてきた。救援機も影響を受けて、竜巻に呑み込まれそうになった。それでもどうにか危機を回避して、竜巻から離れた。


 足先に眼をやると、乗っていたボートが竜巻に吞み込まれていった。脱出が遅れていたら、ボートと仲良く一緒に竜巻の中を空中遊覧するところだった。


 だが、危機はまだ去ってはいなかった。




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