第58章 新たな竜巻①

 なぜなら、非常にまずいことに5機の救援機とは別に竜巻も現れていた。まだ距離はあるが、またここを襲ってこないか心配だ。いったい火星の大気はどうなっているんだ? この状況下で竜巻に襲われたら、ボートから逃げることもできない。


 クレーターで竜巻に襲われた同じ日に、またも竜巻に襲われる? そんなことは、あり得ないと思うが、嫌な気持ちが体内で増幅していた。いまは一刻早く救援してくれることを祈るだけだが、その予感が、どうやら的中しそうだ。救援機の頭上への到着とともに、風が吹いてきた。砂嵐を取り巻く冷たい風だ。そこに、救援機が到着した。バスケットが強風に揺られながら降りてきた。


「さあ、恵美さん。先に乗ってください」

 キアヌが声を飛ばしてきた。


「わたしは、最後でいいわ。誰か先に乗せて」

 恵美が遠慮する顔で、キアヌに声を返した。


「いいえ、あなたが先です。ここいるのは男性だけです。女性より先に男を優先するわけにはいきません。ほら、他の面々もそう思っています」

 キアヌが周りに眼を送りながら、声を返した。


「恵美、時間がない。いまは素直に従うのだ。お父さんたちもすぐにいく」

 強い口調で促した。


「……わかった。絶対に来てよ」

 恵美はそう言うと、俺に抱きついてきた。


 恵美は救援機に引き上げられていくバスケットの中で、不安そうな顔で俺をじっと見ていた。恵美に続いて、1人また1人と救援されていった。残っているのは俺とアリーナ、キアヌだけだ。


 風がかなり強くなってきた。竜巻も近づいて来た。その距離、およそ400メートル。竜巻に1隻のボートが襲われた。悲鳴とともに、4人の男が竜巻にのまれていった。


「さ、アリーナさん、いって」

 キアヌが青い顔で促してきた。


「いえ、あなたが先に行ってください」

 アリーナが即座に返した。


「キアヌさん、先に行ってくれ。俺たちもすぐに行く。さあ、時間がない」


「私は、このボートの責任者です。先に行くわけにはいかない」


「それを指示したのが俺だ。俺が全体の責任者だ。さあ話をしている時間はない。これは命令だ」

 俺は早口で声を飛ばした。


「わかりました」

 キアヌは申し訳なさそうな顔で応じると、バスケットに乗った。


 キアヌが機内に消えると、竜巻が接近してきた。

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