第57章 大洪水⑫

 濁流が俺たちのボートに迫ってきた。そしてボートを囲むと、濁流の中に呑み込もうとしてきた。ボートを激しく揺さぶり何度も転覆させようとしてきた。だがさすがだった。アリーナが考案したボートは波乗りのように下流に流れていった。


「砂漠状の底地に大量の泥流が混ざったことで、この一帯が底なし沼のようになっているわ。水かさが浅くなってもボートから降りないで!」

 水流が落ちてきたところで、アリーナが声を飛ばしてきた。


「キアヌ、各ボートのリーダーに、ボートから降りないよう連絡してくれ」

 このボートのリーダー、キアヌに指示した。


「わかりました」

 キアヌは応じると、すぐに連絡をとっていた。


「アリーナ、ボートは大丈夫か?」

 少し沈みかけているように感じた俺は、すぐに答えを求めた。


 ここまで濁流に叩きつけられたボートは、無傷というわけにはいかなかった。周りは傷だらけになっていた。底面も損傷しているだろう。


「ええ、少なくとも30分ほどは大丈夫だと思うわ」

 底地に眼をやっていたアリーナがすぐに声を返してきた。


「30分後はどうなる?」

 俺もすぐに訊き返した。


「沈むかもしれない」

 アリーナが重い顔で答えてきた。


「大丈夫です。救援機がここに向かっています」

 キアヌが安心させようとの顔をつくって声をあげてきた。


「それなら大丈夫だな。みんな、砂の中で冬眠せずにすみそうだ」

 俺は軽口口調で応じた。


 ただ気になるのが、また登場してきた、遠くの黒い雲だ。


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