第57章 大洪水⑩
それでも不満の顔をしている人たちもいた。銃口を向けられ渋々従ってはいるが、何か問題が発生すれば、今度こそ騒動が起きるのは確実だ。俺は、ワシントンの側に立った。
「みなさん、聞いてください! 洪水が襲って来るとしても、まだ時間があります。洪水が来てもいいように、あのボートも作りました。大丈夫みんな助かります」
俺は声を張り上げると、ボートを指さした。
「たとえ避難車両や避難機に乗れなくても、あのボートで避難します。一人もここに置き去りにしたりはしません」
俺は声と一緒に身振り手振りで、みんなに説明した。
「ボートには、私と娘も乗ります。安全でなかったら乗ったりはしません。あのボートが安全でなかったら、みなさんを置き去りにして、さっさと真っ先に逃げます。もちろん、そんなことはしませんがね」
俺はみんなを安心させようと笑みを浮かべ、ジョークを交えて語った。
「えーとそれで、これからボート遊覧に参加する人と、救援車両、救援機に乗る人を選別します。それとは別に、どうしても私と一緒に遊覧したいという人がいましたら、どうぞ申し出てください。大歓迎しますよ」
軽口で説明すると、副官の周徳と代わった。
「これから、公平を期すため、救援機、救援車、ボートに乗る人を抽選で決めます」
周徳が説明を始めた。
俺が恵美の傍に戻ると、各ボートのリーダーの隊員たちに説明を終えたアリーナが青い顔でやってきた。
「第3の堰き止めも洪水は超えたそうよ。水量はだいぶ落ちたようだけど、それでも危険な濁流に変わりはないわ」
険しい顔で吐いてきた。
「ああ、わかった。とにかくいまは、みんながパニックを起こさないように、慎重に誘導しないといけない」
俺は空元気の口調で返した。
いまの俺の頭の中は、娘をどう守るかでいっぱいだ。
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