第57章 大洪水⑨

 ボートの完成を急いだ。1分1秒でも早く完成させたい強い思いで、脇目もふらず手を動かし続けた。


「できたわ」

 アリーナがホッとしたような声をあげた。


 俺の前に5隻のボートが並んでいた。上流の方角に眼をやった。第3堰止めでも洪水は防げないと。腹の虫が知らせていた。


 すると、避難民たちが騒ぎ出した。


「洪水が襲ってくるぞ!」

 どこから情報を手に入れたのか? 誰かが叫んでいた。


 それを耳にした避難民たちがウイルスに感染し拡散したかのように、パニックを起こしだした。我先にと、救援車両や救援機に殺到していた。


「みなさん、落ち着いてください。これは命令です! 従わない人は、射殺します」

 監視台に立った指揮官のワシントンが声を飛ばしていた。


「なによ! あの指揮官、射殺するなんて。まるで軍の独裁者じゃない」

 恵美が反発する声を飛ばしてきた。


「まあ仕方ないさ。暴動がエスカレートして、救援の車両や救援機を壊されでもしたら、救える命も救えなくなる」

 俺はなだめるように、恵美に話しかけた。


 確かに好ましい言動ではないが、みんなを救いたいがための、やむにやまれぬ行動だ。ワシントンの声に呼応して、隊員たちが一斉に避難民たちに銃口を向けたことで、暴動になる前に騒動はどうにか収まった。


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