第57章 大洪水⑤

 俺は画像を食い入るように見ていた。


「大洪水になる確率は?」

 画像を見たまま、息をのんで、訊き返した。


「40%よ」

 アリーナが同じ表情のままで答えてきた。


「40%!?」

 俺は眼を見開いて訊き返した。


「ええ、そうよ。その40%の確率を下げられるよう、考えてみる」

 アリーナは答えると、またマリネリスの分析にかかっていた。


 俺は、アリーナの口調からして、100%は阻止できない、全員を救うことはできないということを感じ取った。

 ということは、恵美も?


 俺は嫌な想像を頭から振り払った。絶対に諦めるわけにはいかない。たとえ、この命を引き換えにしても。


「マリネリス渓谷が見えてきました」

 パイロットの若い男が報告してきた。


 その声に、俺は分析中のアリーナの傍を離れて、操縦席の背後に足を運び、眼下に眼をやった。幸い、マリネリス渓谷での砂嵐は収まりつつあった。まだ強風が続いていたら、爆薬を仕掛ける作業も難しくなる。

 天は、俺たちを見捨ててはいないようだ。


 俺たちは急いで爆薬の埋め込み作業を始めた。アリーナが考えたのは砂防ダムのように3か所で洪水の流れを止める作戦だった。


 俺は作業現場から、下流の方角に眼をやった。眼に入ってくるのは、広大な渓谷の景観だけだ。当然、恵美たちが避難している場所は、まったく見えない。


 今頃、恵美はどうしているだろうか? ここから150キロも離れている避難場所に、瞳を注いだ。


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