第57章 大洪水③

 俺はすぐには声を返すことができずに、激しく動揺したまま聞いていた。避難者全員は助からないという言葉が、俺の胸を強く突き刺していた。娘の恵美は、みんなが避難するまでは、最後まで残るだろう。 


 これまで子供でさえも犠牲にしてでも、自分は生きようとする連中を多く見てきたが、娘は他人を見殺しにできるような性格ではない。


「アリーナ、俺を迎えに来てくれ。マリネリスに行く」

 俺は強い声を飛ばした。


「わかった。すぐに行くわ」

「それと、使える機は何機ある?」

「全部で3機よ」


「3機しかないのか。わかった。その3機に、ありったけの爆薬を積んで来てくれ」

 使える機の予想外の少なさに、俺は落胆の声で返した。


「爆薬を積んでどうするの?」


「マリネリスの崖を爆破して、洪水を阻止する。全員を助けるには、その方法しかない」

 俺は咄嗟に思いついた案を、さらに強い口調で説明した。


「渓谷を爆破?」

 側で聞いていたマルコフが口を挟んできた。


「ああそうだ。アリーナ、渓谷のどこを爆破したらいいか、すぐに調べてくれ」


「わかった」

 アリーナは即応すると、マリネリスのデータを調べ始めた。


 また、アリーナの力にすがるしかない。むやみに爆薬を仕掛けても、洪水を未然に防ぐことは不可能だ。せき止められそうな場所を見つけて、確実に洪水を止められる崖崩れを起こさせないと、多くの命が失われる。


 恵美の命も。


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