第57章 大洪水①

 一方、アリーナたちがモニターを見ているその頃、クレーター内は千人もの人間がいるとは思えないほど、シーンと静まり返っていた。


「みんな落下の衝撃に備えろ!」

 俺は、声を張り上げた。


 ドドーン! という落下音が耳を震わせ、地響きが足下をグラグラと揺るがした。俺の悪運も一巻の終わりか? いや、クレーターには何も起きなかった。すぐさまモニターに眼をやった。


「ここを逸れたのか?」

 俺は画面を見ながら、安堵した独り言を落とした。


「落ちたのは、ここから200メートルほど離れた地点です。助かった」

 同じようにモニターを見ていた野口が、歓喜の声を上げてきた。


 緊張の糸が解けて、俺の肩から力が抜けていった。歓声がクレーター内を包んでいた。改めて、アリーナの能力に舌を巻いた。


「宮島さん、大変よ!」

 そこにアリーナの声が飛び込んできた。


「どうした?」

 彼女の声の調子から、ただ事でないことをすぐに感じ取った。


「マリネリス渓谷が、洪水に襲われるわ!」

 またもや耳を疑う言葉が、俺の心を襲った。



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