第56章 巨大隕石⑭

 俺と野口は、凍り付いた顔でモニターを凝視していた。バカでかい岩のような欠片が、ここの方向に向かっているのだ。直撃されたら、数百人が犠牲になるかもしれない。だがクレーターから飛び出せば、まだ収まっていない熱波の餌食になるだろう。


「宮島さん、どうしますか?」

 野口が凍り付いたままの顔で、指示を仰いできた。


 俺はすぐには返答できなかった。みんなを救う方法なんて、この状況下では不可能だということは、訊いてきた野口もわかっているはずだ。だが俺も頼れる相手が側にいれば、同じように聞いただろう。


「避難壕に入れなかった人たちをできるだけ壕の中に詰めろ。それとトイレの壁や屋根、盾にできそうな物は全て集めて、彼らに持たせろ」

 俺はとっさに思いついたことを野口に指示した。


 これである程度は被害を防げるはずだ。手を拱いて何もしないよりは、少しはましだ。


「宮島さん、シートのセンター切り分けて、避難壕の盾にして」

 そこに、アリーナが声を飛ばしてきた。


 俺はその声に合点した。シートは外縁から10メートルほどのところから、金属の輪で囲まれていたが、たぶん補強材だろう程度にしか考えていなかった。


 まったく、たいした女だぜ。こういうことも予想していたのか。いやきっと偶然だろ。その金属の輪に沿ってシートを斜めにすれば、避難壕の盾にすることができる。


「野口さん、あの金属に沿ってシートで壕の盾を作る。みんなに指示してくれ」

 俺は即座に内容を説明した。


 だが落下地点の予測が外れてクレーターのより近くに落ちれば、盾ごと吹き飛ばされて数百人が犠牲になってしまう。被害を完全に防ぐことはできない。いまは、予測どおりに落下してくれて、被害が最小限になることを祈るしかない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る