第56章 巨大隕石⑨

 地球の大竜巻なら暴風雨を伴うが、火星の竜巻は雨の代わりに乾いた砂石を振らせる。ただの砂石ではない。弾丸のような凶器になるのだ。暴風が激しく叩く鈍い音と、シートに風穴を開けようとする砂石音が増してきた。


「竜巻のカテゴリーが、3から4になりました。シートがもつかどうか」

 野口が心配そうに吐いてきた。


「大丈夫。そう簡単に壊れたりはしないさ」

 俺は平静な顔をつくって応じた。


 内心は壊れないか冷や冷やしていた。いまは、アリーナのつくったシートを信じるしかない。そこに、ガガーン! という肝を冷やすような大きな衝撃音が聞こえた。すると、あっちこっちから悲鳴聞こえてきた。悲鳴の理由は、黒い影だった。眼をやると、シートの上に何かが乗っかっていた。どうやら大きな岩のようだ。暴風がますます強くなった。竜巻の本体がクレーターの淵を乗り越え、シートに襲い掛かってきた。それでもシートはどうにか持ちこたえていた。


「宮島さん、聞こえますか?」

 雑音に混じって、声が聞こえてきた。マルコフだ。


「ああ、聞こえる」

 相手に聞こえるよう、通信機に向かって大声を飛ばした。


「わたしよ。アリーナよ」

 今度はアリーナの声が聞こえてきた。


「そこは、大丈夫?」

 心配した声が続いてきた。


「ああ、大丈夫だ。いや、ちょっとやばいかも。竜巻が直撃してきた」

 俺は平静を装った声で答えた。


「隕石が落ちてくるわ」

 アリーナが叫ぶように声を飛ばしてきた。


「なんだって?!」

 耳を疑うかのように声を返した。


「隕石が予想よりも早く落ちてくる。5分後よ」

 俺はその言葉に愕然とした。


 竜巻に隕石。もう俺の悪運も、尽きたようだ。


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