第56章 巨大隕石⑧

 アリーナたちの車が視界から消えてしばらくして、自然の悪魔が襲ってきた。不気味な暴風音ともに、シートを激しく叩きつける音が避難所を襲い続けた。みんな息を潜めて、恐怖にじっと耐えていた。大砂嵐が何事もなく去っていくのをひたすら願い続けた。幸いだったのは、ここに女性や子供たちがいないことだ。


 俺と、ここのリーダーの野口はレーダーモニターを食い入るように見つめ、竜巻の動きを注視していた。


「まずい。一つはここに向かっている」

 野口が凍り付いた顔で声を飛ばしてきた。


「野口さん、住民たちを壕内に。壕に入れない人たちは、固定具に自分の体を縛るように指示してくれ」

 俺は強い声で要請した。


「はい。わかりました」

 野口は頷くと、部下を率いて住民たちの前に立った。


「みなさん、竜巻がここに向かっています。くじに当たった人たちは避難壕に、外れた人たちは、説明したとおりに行動してください。さあ急いで」

 マイクを手にした野口が声を飛ばした。


 それを耳にするや、住民たちはそれぞれ決められた方向に動き出した。避難行動は事前に説明していたのでパニックは起きなかった。ただ、そこは人間だ。誰か1人でも恐怖に駆られてパニックを起こしたら、他の住民たちも一斉に騒ぎ出すだろう。いまは、それが起きないことを願うしかない。


 竜巻がクレーターの淵に近づいてきた。バタバタというシート全体が暴風に激しく叩きつけられる音が、周りに広がった。暴風の巨大な爪が、シートを引き裂こうとしていた。みんな声を潜め、避難所内は無人のように静まり返った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る