第56章 巨大隕石⑥

 俺たちは資材をクレーターに運び、シート張りに着手した。


「俺もクレーターに残る」

 自分だけ安全地帯に避難するわけにはいかない。


 クレーターに避難する1000人が心配だった。アリーナの考案したシートなら大丈夫だと思うが、火星では何がおきるかわからない。


「それなら、わたしも一緒に残ります」

 アリーナが俺の気持ちを察したのか? すぐに応じてきた。


「いや、君は格納庫に避難しろ。彗星の衝突回避には、君の力が必要だ」

 俺はマリーナの眼を真っすぐ見つめて、強い口調で言い返した。


「俺たちの目的は、あくまで彗星衝突の回避だ。君に万が一のことがあったら、大変だ。なあに心配するな、これまで何度も命の危険な目にあって、俺の生存能力は以前より何倍も高くなっている」

 俺はそう言うと、心配ないという微笑みを見せた。


「宮島さん、あなたも大切です。私たちと一緒に格納庫に避難しましょう」

 マルコフが割って入るように、声をかけてきた。


「いや俺の命と、あの人たちの命も同じだ。なあに大丈夫だ、心配ない。俺は見かけより意外としぶといんだぜ。そう簡単に死にはしない」

 俺はマルコフに、にやりと笑って見せた。


「それより、砂嵐は待ってはくれない」

 二人の顔に、腹は決まっているとの眼をやり、準備を促した。


「わかったわ。約束よ。もし死んだりしたら、絶対に許さないから」

 アリーナが、アマールに戻ったかのような口振りをして、珍しく怖い顔をしてきた。


 俺は、その口調と顔を眼にして、内心でびっくりしていた。第3者から見たら、2人は恋人同士と勘違いされるだろう。案の定、マルコフが目を丸くして立っていた。

「ああ、死んだ後に、君に、何をされるかわからないからな。恐ろしくて、死ねないさ。大丈夫、死にはしない」

 俺はジョークで切り返した。


「大砂嵐の来襲が、アリーナの予測通りなら、ここで余計な時間を潰している暇はない。マルコフさん、あなたは急いで住民を集めてください」

 マルコフに瞳を移し、話を振った。


「わかりました」

 マルコフが頷くように声を返すと、住民を集めにいった。

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