第56章 巨大隕石⑤

 砂嵐は、全員の避難を待ってはくれなかった。空は赤く染まり、黒灰色の不気味な雲が遠くに見えていた。


「これでは渓谷に行くのは無理だ。別の避難方法を考えたほうがいい」

 俺は、マルコフの正面に立ち、決断を促した。


「そうですね。ですが住民の数が多すぎる。4、500人程度ならミサイルの地下格納庫に避難できますが、残り1000人をどこへ避難させるかです」

 マルコフが吐息のような声を返してきた。


「マルコフさんクレーターを使いましょう。1000人なら、小さいクレーターでも避難できます」

 横で砂嵐のデータを解析していたアリーナが提案してきた。


「クレーターに?」

 マルコフが即座に訊き返してきた。


「クレーターには自然の頑丈な外縁があります。その外縁の内壁を利用してシートで被うのです。クレーター内を密封すれば砂嵐を防ぐことができます」

 アリーナが声を返すと、考案した画像を見せた。


「なるほど、これならどんな強風が吹いても、家のように壊れることもない」

 俺はひどく感心したように、口を挟んだ。


「問題は、そのシートだな」

 俺はすぐに声を続けた。


「はい。こうなることも考えて、シートは既に準備してあります」

 アリーナが俺たちの顔に眼をやりながら、答えてきた。


 さすがだ。用意がいい。ま、そもそも頭脳が人間とは違う。


「それで、そのクレーターは?」

 マルコフが納得したという顔で声を返してきた。


「ここから、1.5キロ離れたクレーターです」

 アリーナがさっそくクレーターの画像を俺たちに見せた。


 画面にはソフトボールの試合でもできそうな、直径80メートルほどのクレーターが、大きく映っていた。


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