第56章 巨大隕石③
俺は、スクリーンの画像を怒りの眼で見ていた。地球から命からがら逃れてきた、平和な生活を求めて火星にやってきた人々の命を奪おうと近づいて来る巨大隕石を思いっきり蹴飛ばしたい思いだった。できれば、この手で粉砕したかった。
「やっぱり、あのミサイルは使えないのか?」
俺は横に並んだアリーナに訊いた。
「はい。彗星対策の核ミサイルを一つでも使えば、計画が失敗する恐れが高いです」
アリーナが以前のように敬語調で答えてきた。
「いまあるミサイルを使って、できるだけ被害を最小限にすることが最善の方法です」
俺はアリーナの説明を頭ではわかってはいたが、ある程度の被害が出ることには、納得できなかった。もうこれ以上、罪のない人たちの死は、眼にしたくなかった。
既存のミサイルでは、隕石の落下そのものを防ぐことはできない。俺たちにできるのはアリーナが予測した落下地点からできるだけ遠くに住民を避難させることだが、避難所となる第2都市はまだ完成していない。最悪なことに、隕石落下の予測地点は、この町から千キロも離れていない。
火星の人口は、40万人近くまで膨れ上がっている。これだけの数を何処に避難させるかだ。避難させる先は、一つしかない。深さが7キロもあるマリネリス大渓谷だ。富士山もすっぽりと入るマリネリスの低地帯なら、爆風の直撃を防ぐことができるはずだ。
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