第55章 火星人の遺跡⑦
俺たちは、コロリョフの外縁に立っていた。摩訶不思議な巨大クレーターだ。氷を内径一面に張った火口は、上空からの眺めは実に美しい。だが東京、神奈川、埼玉、千葉まで広がる巨大クレーターの隕石が地球に落ちていたら、と想像するとゾットする。
「ここは火星人たちの文明が栄えていた頃は、氷ではなく液体の湖でした」
アリーナが氷面を見渡しながら、曇ったような声で説明してきた。
「アリーナさん、ベムたちはどうして? ここに来たのでしょうか?」
恵美が俺と話すときのため口ではなく、丁寧語で訊ねた。
「おそらく、どこを探しても無傷の宇宙船を見つけることができず、ここの湖面に最後の希望を託したのかもしれません」
アリーナは瞳を恵美の顔に向けて説明してきた。
「宇宙船の強度であれば水面に墜落してもダメージは少ない。そこで沈んでいる船を引き揚げようとした」
そう言うと、瞳を氷面に戻した。
「なるほど、ここが液体であれば宇宙飛行に支障のない状態の宇宙船を手に入れることができると、彼らは考えたかもしれない」
俺は話に加わった。
「上空からレーダーをあてて調べてみましょう」
横に並ぶように立っていたユーリーが声を飛ばしてきた。
俺たちは探査機に戻った。
「ユーリー、まずはクレーターの外縁と氷岸を飛んでくれないか?」
ベムたちが来たとすれば、彼らの遺骨は氷内よりも、氷面の周りに眠っている可能性が高い、と俺は考えたのだ。
再びコロリョフの上空に飛んだ。見れば見るほど、魔訶不思議な光景だ。これが自然にできたものとは、とても思えなかった。
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