第55章 火星人の遺跡⑥
俺たちは地上に戻ってきた。頭を動かし、改めて周りの風景を見渡した。火星人たちが家族団欒で暮らしていた頃は、ここはどんな風景だったのだろうか? おそらく豊かな緑も湖もあったのだろう。俺は切ない思いに駆られた。
「おとう」
恵美があいからずの言葉を吐いてきた。
「おとう?」
ユーリーがはてな? 顔で復唱していた。
「あのなあ、恵美。お父様とか、お父さん、ダディとか言えないのか? 時代が進化しているのに、いまだに、おとう呼ばわりして。まるで、この俺が古い田舎の親父みたいじゃないか」
俺は不満顔で言い返した。
「あれ? いままで何も言わなかったのに、誰かを意識しているの?」
恵美が半分茶化すように言うと、アリーナを一瞥した。
「バ、バカ言え。まあいい。好きにしろ」
どうでもいい話のおかげで、暗くなっていた気分から少しだけ解放された。
「ねえ、おとう。あの女の子の父親を捜しにいこうよ」
恵美が真面目な顔に戻し提案してきた。
「そうですね。音信普通となったときのデータを辿って行けば、もしかして見つけることが可能かもしれません」
ブラックボックスの最後の解析を終えたアリーナがこちらに顔を向け、恵美に同調してきた。
「ベムたちが最後に通信してきたのは、北部のあるコロリョフクレター付近よ」
アリーナがディスプレイの画面を見せた。
ディスプレイに映っていたのは、コロリョフの画像だった。底一面を白銀のような氷が張った、直径が80キロ、氷の深さは1.8キロもある巨大クレーターだ。だから夏でも氷が解けることはない。
俺は、その画像に強く惹きつけられた。
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