第55章 火星人の遺跡⑤

 アリーナの最後の説明が終わるにつれ、恵美は嗚咽していた。涙をふくと、小さな遺骨の前に腰を落とした。初めて眼にしたときは恐々と見ていた遺骨を慰め労わるかのように見つめていた。彼女が見ていたのは、ララの遺骨だった。


「ここを出て、地上で暮らしたかっただろうに。みんなの遺骨を集めて、地上で埋葬してあげましょう」

 恵美が涙を拭きなおして提案してきた。


「わかりました。みんな手伝ってくれ」

 ユーリーが即答し、他の隊員に指示した。


「アリーナ、あの遺骨からクローンはつくれるのか?」

 俺は周りには聞こえないよう、小声で訊いた。


「ええ、時間はかかりますが可能だと思います。でもいまは、彼女たちのクローンを誕生させるのは賢明ではありません。不安が増しているこの時期に、火星人が現れたら新たな問題が起きるかもしれません」

 恵美たちに収集されている遺骨に眼をやりながら、アリーナが小声で説明してきた。


「住民たちがホラップに扇動されたように、人々の洗脳されやすい精神構造は20世紀の人々と、いえ紀元前の人々ともあまり変わりませんから」

 アリーナが同じ口調で続けてきた。


 俺には、その言葉が何か皮肉のように聞こえた。確かに科学文明がいくら進んでも人の心はさして進化などしていない。

 だから、AIに地球を乗っ取られた。


「火星人たちを復活させるのであれば、彗星の衝突を回避し、火星が落ち着いてからでも遅くはありません」

 瞳を遺骨から俺の顔に向けて、説明してきた。


「確かに、そうだな。まずは彗星の衝突阻止が先だ」

 俺は納得した顔で応じると、遺骨の収集に加わった。


 それから俺とアリーナも遺骨収集に加わり、骨の一片も置き去りにしないよう集めると、遺跡を離れた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る