第55章 火星人の遺跡③

 だが、ベムたちは予定の2週間経っても戻らなかった。ベムだけでなく8グループ全員が音信普通になっていた。出発して1週間は各グループから毎日、連絡が入っていた。


 8日目だった。「すごい磁気嵐だ!」それがベムの最後の言葉だった。その後は完全に音信は途絶えた。それから2週間が経ち、3週間が経ち、2か月が過ぎても誰も戻っては来なかった。地底に残されたのはマギたち成人女性の5人と、子供3人。そろそろ食料が底をついてきた。


「お母さん、お腹がすいた」

 ずっと我慢を続けていた娘のララが、息が途切れそうに吐いてきた。


 他の子供たちもひどい栄養失調で立つ元気もなく、地べたに横たわっていた。いや子供たちだけでなく、大人も全員がミイラのように痩せこけて、息も絶え絶えの状態だった。


「いま、みんなの分も作ってあげるわね」

 マギは声を絞り出すとふらつく体を鼓舞し、自分の衣服を脱いで切り刻んで鍋に入れて煮込んだ。空腹をしのぐには、身に着けている衣服を食べる以外に、他に方法は残されていなかった。だが、全員の服を食料に使っても1か月しか持たない。


 その後は。

 マギは、自分の腕を切り、それを食べさせるつもりだった。


 1か月が経ち、衣服もなくなった。全員が全裸だ。


 最後の手段を、もう実行するしかない。

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