第55章 火星人の遺跡②

 ブラックボックスを解析していくうちにアリーナの顔は、人間のように涙が出るなら、いまにも零れそうな眼をしていた。


「ここでの生活は過酷で大変だったようです」

 アリーナがここで起きてきたことを話してきた。


 この地底に逃れてきたのは成人の男性22人、成人女性が15人に、そして3人の少女だった。彼らは、ここで約1年間暮らしていた。だが、食料が底を尽きはじめた。地下水を利用して野菜の栽培をしていたが不作が続き、1日1食の生活を余儀なくされていた。


 アリーナの臨場感たっぷりの詳細な説眼を聞いていくうちに、タイムスリップでもしたように、俺の瞼には当時の光景が浮かんでいた。核戦争から、生き残った火星の人々が目の前に立っているかのように、瞳に映っていた。放射線に汚染された大地から命からがら地底に逃げてきた火星人たち。


 彼らは、互いに助け合い、どうにか生き延びようとしていた。だがやはり、地底で長く暮らし続けるのは限界があった。


「このままだと、いずれみんな飢え死にする。まだ使えそうな宇宙船を探してみる」

 リーダーのベムが、集まった全員の顔をみながら説明した。


「ベム、地上はまだ強い放射線に汚染されているわ。命を落とすことになるわ」

 彼の妻のマギが、心配そうな顔で吐いてきた。


「ああ、わかっている。だが、何もしなかったら、いずれ、みんな死ぬことになる。もし宇宙船を見つけることができたら、助かるかもしれない」

 ベムは不安がるマギを安心させようと、冷静な口調で語った。


「お父さん、戻ってくる?」

 娘のララが泣きそうな顔で言ってきた。


「大丈夫。必ず戻ってくる。ララの顔が見たいからな」

 ベムはララの目線まで腰を落とし、優しく声を返した。


「2週間以内には、良い報せを持って、ここに戻ってくる」

 腰を上げたベムは、留守を預かる全員の顔に眼をやりながら、力を込めて語った。


 ベムたちは宇宙船を探す確率を高めるため、4人一組8グループに分かれて地上に出ていった。



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