第53章 火星の癌⑫

 悪党たちの一斉清掃を終えた救援機は、土埃をまき散らしながら着陸した。そして銃を手にした二人の仲間と共に、機内からユーリーが出てきた。


「宮島さん、アリーナさん、大丈夫ですか?」 

 ユーリーが心配そうな声をかけてきた。


「ああ、二人とも大丈夫だ。助けに来てくれて、ありがとう。おかげで命拾いした」

 俺は礼を述べ、銃を手にしたまま死体の検証をしている二人に眼をやった。


「ユーリーさん、生存者は誰もいません」

 1人が報告してきた。


「なぜ? 彼らは二人の命を狙ったのですか?」

 報告に応じたユーリーが、不思議そうな顔で訊いてきた。


「あいつらは、ガイガーの命令で動いていた。俺の命を狙ったのは衝突回避の計画を阻止するためだ。ユーリーすまんが、酸素が衣服から漏れ出している。詳細は後で説明する」

 俺は酸素が漏れている肩の衣服を掴んで説明した。


 衣服の酸素残量を確認すると、30%を割っていた。アリーナに逃げるよう威勢のいい言葉を吐いたが、これでは戦えるはずもなかった。途中酸欠で倒れていただろう。


「わかりました。急いで機内に」

 状況を察したユーリーが促してきた。


 俺とアリーナは、ユーリーの先導で機内に少し速足で乗り込んだ。機内に入ると、すぐヘルメットを外し、新鮮な酸素を体内に取り込んだ。生き返った気分だ。


 俺が酸素を体に取り込んでいる間に、アリーナがホラップに吐かせた内容をユーリーに説明した。その内容は無線を通じ、本部にいるマルコフたちにも伝わっていた。

「宮島さん、本当に申し訳ありません。ホラップたちが不信な行動をしている情報は得ていましたが、もっと注意を払ってさえいれば、こんな目に遭うこともなかったのに」

 画面に映るマルコフが謝ってきた。


「いや、あんたのせいじゃない。まあこれで、ホラップたちの狙いがわかったわけだ」

 俺は即座に声を返した。


「それで? ホラップは?」

 画面から覗くようにマルコフが訊いてきた。


「ああ、乗ってきた車を棺桶代わりにして、成仏したはずだ。今頃は、三途の川を渡って地獄に向かっているかもしれない」

 俺は少し軽口口調で答えた。


「しかし、焦土にして男たちを殺すとは」

 俺は過激なやり方に少し納得しかねるという顔で声を続けた。


「いえ、撃たれて宇宙服に穴が開いたほうがもっと悲惨です。ここはまだ人が呼吸できるほどの酸素はありませんから、ひどく苦しんだあげくに死んでいくことになります。いま報告がありました。ホラップはやはり死んでいました。深海底から海上に引き上げられた深海魚のように、眼が外に飛び出した状態で死んでいたそうです」

 ユーリーが横から説明してきた。


 俺はその言葉に、背中に冷や水を浴びせられた思いだった。ユーリーたちが助けに来るのが、もう少し遅ければ、この俺もホラップのように、深海から釣り上げられた深海魚のお仲間になっていたということだ。


 死ぬときは、そういう死に方だけはごめんだ。



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