第53章 火星の癌⑪
ここで押し問答をしている時間はない。男たちの隙をついて町を目指して走った。まだ走行できる車が追ってきた。
「さあ、早く! 逃げろ!」
俺は声を飛ばした。
「いえ、あなたを残して行けないわ」
アリーナが強い口調で声を返してきた。
車が追いついてきた。そして少し距離を保った位置に止まると車のドアが開き、6人の男たちが銃を構えて出てきた。
俺とアリーナは目先にある小岩の背後に身を伏せた。また小型ミサイルを発射されたら確実に岩ごと吹き飛ばされる。
「くそ! 絶対絶命か」
俺は口の中に声を飛ばした。
そこに上空から音が聞こえてきた。俺たちを捜索していた救援機だった。
「やっと来てくれたか。遅えぞ」
俺は半分安堵した声を零した。
男たちは銃口の方向を空に向け、救援機に一斉に発砲を開始した。ダダダダ! 発砲音が静寂な周りを騒がした。救援機はいったん後退したがすぐに反撃に転じ、ミサイル弾を放ってきた。車は粉々に吹っ飛び、一帯は焦土と化した。その凄まじい熱風は、俺たちの体も覆った。豚の丸焼きのようにされた男たちは断末魔の悲鳴を上げながら、ばたばたと倒れた。
俺はその光景に驚いた。マルコフたちは、ガイガーの攻撃に備えて、強力な武器を開発していた。だが、いくら強力な武器を装備しても、ガイガーの軍には太刀打ちできない。所詮、人間が勝てるような相手ではない。
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