第54章 DNA①

 俺たちを乗せた救援機が飛び立つと、入れ替わるように6台の大型車両が、死体焼却の現地に向かっていた。肉片が一つも残らないよう清掃するためだ。


「アリーナ、大丈夫か?」

 俺は傷を負った上腕と肩に眼をやりながら、いたわるように訊いた。


「大丈夫よ。この程度の傷なら、自分で治せるわ」

 アリーナがいつもと変らぬ口調で答えてきた。


「そうか。それは良かった」

 俺はありきたりの声を返した。


 命を捨てでも俺を守ろうとしたアリーナは名前と髪の色が変わっただけで、アマールに戻ったように思えた。


「わたしのことより、あなたの肩は大丈夫なの? 見せて」

 アリーナがすっと傍に近づき、肩に手を触れた。


「思ったより、大丈夫そうで良かったわ。これならすぐに治せるでしょう」

 安心したという顔で吐いてきた。


 俺はアリーナの所作に、少しびっくりした。男たちに襲われるまでは敬語を使っていたのが、すっかり以前のような口調が変わっているので、またアマールに戻ったのか? と思ったが、どうやら勘違いだったようだ。


「お二人は、まるで恋人か? 夫婦のようですね」

 ユーリーが何を思ったのか? 突然、突拍子もないことを言ってきた。


「まさか? 俺と彼女は、親子以上の年齢差がある。それに、彼女は。そうだ、遺跡の調査はどうなった?」


 俺は一瞬ドキッとして、すぐに声を返し、そして話題を変えた。だが内心は、年甲斐もなく、まんざらでもない気持ちだった。


 一方、アリーナの方はユーリーの言葉が耳に入ったはずなのに、変わらない平静な顔で立っていた。当然だろう。実年齢は老人の俺なんか眼中にはない。ましてや、人間の男と女ではない。


 心で首を振り、雑念を振り払った。



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