第53章 火星の癌⑨

 俺は車のドアを蹴破るように、車内に入った。


 アリーナが全裸にされて、強姦!? そんな心配など、まったく必要なかった。


 アリーナは何事もなかったように、衣服の乱れもない姿で立っていた。その足下には、ホラップが泡を吹いて気絶していた。


 さっきのアリーナの悲鳴は、なんだったのか? どうやら、ホラップの手下たちを騙すための悲鳴だったようだ。やっぱり頭脳を改造されても、アリーナの戦闘力は以前と何も変わっていなかったようだ。


「宮島さん、この男は、ガイガーの命令で動いていました」

 アリーナがいつもの口調で話してきた。


「ガイガーの命令?」

 俺はびっくりした声で聞き返した。


「はい。この男は、ガイガーの命令で宮島さんを殺害し、衝突回避の計画を阻止しようとしたのです」

 口を開けて寝ているホラップに眼をやり、同じ口調で説明してきた。


「計画を阻止できたら、その報酬として地球への帰還を認め、生き残っている人間たちの支配者にするとガイガーが約束したそうです」


「バカな? 人間を虫けらにしか見ていないガイガーが、そんな約束など守るもんか」

 ホラップの醜い顔に、軽蔑の眼をやった。


「宮島さん、車が近づいて来るわ。わたしたちを追っていた車よ」

 窓に眼をやったアリーナが声を飛ばしてきた。


 急いで外に眼やると、5台が目前に迫っていた。




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