第53章 火星の癌⑧

 

 車の中から、ドスンという音が聞こえてきた。


「やめて~!」

 アリーナの悲鳴も聞こえてきた。最強の女戦士だったはずなのに、改造されて人間の女のようになったのか?


「ボスは、本当に好き者だぜ。町に戻るまで我慢できずに、車の中で始めた」

 男の1人が声を飛ばしてきた。


「いいか、銃を使うな。町から近すぎて知られてしまう。ナイフだけで十分だ。体を切り刻んでやれ」

 声を飛ばした男が命令した。男たちは逃げられないよう周りを囲んだ。


……てめえら! 俺がアリーナをおいて、逃げるか!

 俺は男たちを睨みつけた。


アリーナが弄ばれる。それが頭に押し寄せてきて、全身の毛穴から、激しい怒りが噴き出しそうだった。


「やっちまえ!」

 その声が周りに届くより先に、俺は矢のような速さで男たちを次々と殴り、蹴り上げ、地面に転がした。


 俺は格闘家のように強くなった自分の体に、ひどく驚いた。まるでスーパーマンにでもなった気分だ。ただし、空には飛べないが。


「野郎!」

 1人が罵声を飛ばし、ナイフを手に突っ込んできた。


 だが、人間の手の動きでは、改造人間の俺には通じない。簡単にかわすと、鉄拳を腕に見舞い、その腕を圧し折った。


「なんだ? こ、こいつ。人間じゃねえぞ!」

 最初に命令した男が、慌てように銃を抜いてきた。


 男が引き金を引いた。発砲してきたそいつの腕の動作より、俺の動きが速かった。腕をとっ掴まえた1人を盾にして凶弾をかわした。銃を手にした男は、構わず発砲を続けた。気の毒にも、盾になった男はハチの巣になった。もっともそうさせたのは、俺にも責任があるが。


 俺はハチの巣になった男を盾にしながら瞬時に動いて、発砲する男に接近すると、車の近くまで蹴り飛ばした。ガン! という音がして、男は地面に転がった。襲い掛かる他の男たちも次々となぎ倒し、全員を地面に寝転がした。


 俺は荒い息をしながら、車に瞳を向けた。音も悲鳴も、聞こえなくなっていた。


「アリーナ」

 車を怒りの眼で睨んだ。


 まさかとは思うが。アリーナが犯された? しかも極悪党に。嫌な空想が頭に過った。


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