第53章 火星の癌⑦
どうにか見つからずに丘を越えて平地に辿り着くと、4台の車がこちらに向かってくるのが見えた。救難信号を受けて迎えに来たのか? いやそうではなかった。救援車両ではなかった。4台は俺たちの前に止まると、20人余りの男たちが出てきた。そしてすぐに俺たちを取り囲んだ。その様子からして、俺たちを助けにきた連中ではないようだ。
男がもう1人出てきた。集会で群衆を煽った奴だ。確か、ホラップという男だ。
「その女をこっちに引き渡せ。そしたら、おまえを助けてやる」
ホラップがドスの効いた声を飛ばしてきた。
ヘルメット越しに見えるそのドスケベ顔が、アリーナに何をしようと考えているのか、容易に伝わってきた。
「わかったわ、約束するなら、そっちに行くわ」
アリーナが、俺が喋る前に返答した。
「約束する。その男は解放する」
ホラップが応じてきた。
「アリーナ、あいつは」
俺は小声を吐いた。
「ええ、わかっているわ。宮島さん、あなたの体は、もう普通の人間の体じゃないわ」
アリーナが何を言いたいのか、すぐにわかった。
俺の強力ボディーは、ここに雁首を並べている連中とはレベルが違う。こいつらの仲間を引き離したさっきの山登り? で証明済だ。
アリーナは前に進み、ホラップに連れられて車の中に消えていった。
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