第53章 火星の癌⑩
5台の車は、取り囲むようにして止まった。それからしばらくして、男たちが銃を手に警戒する姿勢を取りながら、ぞろぞろと降りてきた。頭数はさっきよりも多い。30人は超えている。男たちは銃口を前に向け、すぐに発砲できる態勢をしたまま、死体のように地面に転がる仲間の側に歩み寄った。1人の男が、こっちを指さした。どうやら男たちのリーダーのようだ。すると、その指に従うように5人が車に向かってきた。
「男たちがこっちに来る」
俺は運転席に座っているアリーナに声を飛ばした。
その声とほぼ同時にエンジンがかかった。するとエンジン音に反応して発砲してきた。アリーナはアクセルを踏むと、男たちを次々とボーリングのピンのように蹴散らし、5台の車体の側面に次々と意図的に追突させながら、本部の方角に向かって地面を飛ぶように車を走らせた。
どうやら上手く切り抜けられそうだ。が、そう簡単にはいかなった。ミサイルのようなものが飛んできた。小型のミサイルは車体の背後に当たり、その衝撃で車は横転した。
1日で、2度目の横転被害に遭ってしまった。今度は無事では済まされなかった。右肩の付け根を強く打ってしまい、激痛が脳神経まで甚振った。まったく散々な1日になっちまった。まさか、火星でも襲撃されるとは。
「大丈夫?」
アリーナが心配そうに声をかけてきた。彼女も痛めたようで、左肩を掴まえていた。
「ああ、肩を打っちまったが、たいしたことはない。大丈夫だ」
俺はしかめる顔と違って、気丈な声を返した。
「わたしが、彼らをひきつけます。宮島さんは、逃げてください」
アリーナが人間の女のような顔をして、逃げるよう促してきた。
「いや、君が逃げろ。奴らの狙いは、この俺の命だ。ここでは俺より君の命のほうが大事だ。彗星衝突回避を必ず成功させてくれ」
俺よりも傷が深そうなアリーナの肩を一瞥し、声を返した。
いくら彼女が元最強の女戦士とはいえ、銃を手にした30人を素手だけで倒せるとは、とても思えなかった。たとえこの身を犠牲にしてでも、何が何でも、彼女には生きていてもらわないといけない。
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