第53章 火星の癌⑥
クレーターが点在する荒野の遠方に、町が見えてきた。どうやら振り切れそうだ。
だが心配していたことが、現実となった。ガガガ! 車輪が壊れてその反動で車が一瞬、宙にフワっと浮いた後ゴロンと横転した。シートベルトをしていた俺たちは、逆さ吊りの状態になった。転倒の激しい衝撃で脳震盪を起こしそうになったが、シートベルトが身を守ってくれた。そのベルトをすぐに外し、車外に脱出した。
「さあ、ここから駆け足よ」
アリーナがいつのまにか、アマールのような口調で声を飛ばしてくると、宇宙服に装備してある救援信号のボタンを押した。
「ああ、後を追っていく」
俺は衣服に問題がないかを確認しながら応じた。万が一にも敗れた個所があったら大変だ。アマールいやアリーナと違って、人間の俺は宇宙服なしでは生きられない。
「あいつらがやって来るわ! さあ、急いで!」
北方向に眼をやったアリーナが声を上げた。
振り向くと、アリーナの暴走運転に引き離されて、コメ粒ほどにしか見えなかった車がだんだん大きく見えてきた。それでもゴルフボールほどの大きさだから、全力で駆ければ逃げ切れるかもしれない。
俺たちは本部に向かって走った。だがアリーナと違って首から下は改造人間でもやはり人間の俺の足では無理だった。車の群れは、車体の形状がはっきりと見える大きさなっていた。このままでは、間違いなく追いつかれてしまう。
「あそこに、逃げるわ!」
アリーナが声と一緒に指さした。
指したのは、崖のような急こう配の小高い丘だった。確かに、あそこなら車で追っては来れない。俺たちは、岩だらけのごつごつした急斜面を飛び跳ねるように、よじ登った。重力の弱い火星だからできる登り方だ。途中で振り返ると、追っ手の連中は横転した車体の側に車を停め、中を確認していた。それからどこに逃げたのか探していた。
見つけられないようにしながら、元は老人の体に鞭を打ち、丘の頂を目指した。
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