第53章 火星の癌⑤

 車が迫って来る! 火星の荒野での派手なカーチェイスが続いた。逃げ道に無数に点在するクレーター群と大小の岩石を巧みに避けて、アリーナは車を飛ばし続けた。


「車の数が3倍に増えたわ」

 アリーナがプロのレーサーのように操縦しながら、声を飛ばしてきた。


 助手席にしがみつくように座っていた俺は、ミラーに眼をやった。新たに現れたのは、右側面の前方からだった。どうやら俺たちを挟み撃ちにするつもりだ。


「スピードを限界まで上げるわよ」

 そう言うと、アリーナは車をどんどん加速させた。


 カーチェイスがますます激しくなってきた。テレビ番組で眼にしたことのある警察車と逃走車のカーチェイスがおとなしく見えるほどだ。ガシャーン! 案の定、無理な追跡をしたことで、運転操作を誤ったのか? 車1台が岩壁に激突し、派手に大破した。すると 今度は銃を発砲してきた。車の代わりに周りの岩石が破壊され、欠片が飛び散り続けた。


 それにしてもアリーナは、アマールに戻ったのでは? と思わせるような、巧みな操縦ぶりだった。ガシャーン! また車が派手に大破する音が聞こえた。瞬時に前の障害物を見分けることができるAI相手では、人間が勝てないのは車の運転もそうだ。あまりにもレベルが違いすぎる。追跡車両が多くても、あっさりと追跡をかわせそうだ。


 だが、その乱暴? な卓越した運転に、車が悲鳴を上げた。限界を超えた猛スピードで走りながら右へ左へとタイヤを軋ませて走行したことで、車が分解しそうになっていた。俺は車体に眼をやり、壊れないことを願った。

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